2001年7月3日号(NO.131)
お客様は神様でございます
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昭和を代表する国民的歌手 三波春夫が逝ってしまった。数年にわたる前立腺癌との闘病があったとのことである。東京オリンピックの時には五輪音頭をそして大阪万博では世界の国からこんにちはとまさに日本の発展、戦後の高度成長を人々と謳い上げてきた歌手であった。 2000年ミレニアムを迎える一昨年の紅白歌合戦の終了後、歌手たちにミレニアムにあたってのインタビューが始まった。前二三人の歌手は当り障りのない抱負のようなことを話していたが、彼は自分ではミレニアムについては全く関心がなく、日本には紀元2660年(間違っているかも?)ということで特別なものでもなく、ミレニアム、ミレニアムと騒いでいないで戦中戦後の敗戦の中で銃弾に倒れたリ、シベリア抑留の中で死んでいった戦友達のことが殊更、思い浮かばれてならないといった話をし出したところで司会者が慌てて他の歌手にマイクを切り換えていた。確かにその時はNHK的にはまずい発言かなと思って聞いていたが、亡くなった今から考えると、言わずにはいられなかった心情がよくわかる。あの時、50年前、100年前いや1000年前からのこの国の歴史をそれぞれの分野で問い直していただろうか。三波春夫氏はそのことに大きな疑問をもってあのような発言をしたのではないだろうか。最近、グローバルスタンダードという言葉をよく耳にするが、ただその言葉に押し流されることなく、この国の国民にあった柔軟な考え方、生き方をしたいものである。 お客様は神様でございます。 三波春夫がいった有名な言葉である。私にとっては大学の医進課程時代の恩師からの解説のない教示である。そのために彼については殊更関心を強くもっていたのである。この際の神はキリスト教でいうところの全知全能で愛を持ち、宇宙を創造して支配する絶対者ゴッドというようなものでないことは間違いない。不思議な力で人間、動植物や山川など自然を支配するものと理解され、また見えない存在精神スピリットというふうに考えられる。したがってちょっとでも油断して舞台をやろうものなら、お客さんは一気に奈落の底に陥れる存在として畏怖の念を持って意識していたのだろう。だからこそ歌手三波春夫としては常に気を抜くことなく最高の力で歌っていたのある。 このことはわれわれの仕事にもいえることで患者さんは病気については素人だからと舐めてかかるとこっぴどい目にあう事は避けようもないことである。厳しい戒めをもって当たりたいと思うところである。さらに人間の生き方としても奢った気持ちにならぬように気を引き締めたい。それでなくとも医者に対しては薬メーカーが甘い言葉で誘ってくることがしばしばあるが、適当なところで留めておいて、法外な接待やまた過剰な趣味への要求などはないよう厳しくありたいものである。
月がわびしい 路地裏の チャンチキおけさ である さようなら 三波春夫さん 合掌 (K.Y) |